加齢黄斑変性症 糖尿病網膜症 網膜静脈閉塞症 硝子体注射 レーザー治療
代表的な網膜疾患
加齢黄斑変性症
加齢黄斑変性症とは
網膜の中で最も視力に大切な「黄斑部」に異常な新生血管が発生し、それが破れることによって黄斑部に出血、浮腫が起こり急激に視力の低下をきたす病気です。
発症リスクとしては、加齢、喫煙、高血圧、紫外線などが考えられています。
加齢黄斑変性症のタイプ
網膜よりも深い脈絡膜から異常な新生血管が生えてきて、出血や網膜のむくみを起こす「滲出型」と老廃物が黄斑部に溜まって徐々に変性・萎縮が進んでいく「萎縮型」があります。
我が国の加齢黄斑変性症は「滲出型」が多いです。
加齢黄斑変性症の自覚症状
症状として、見たいところが歪んで見える「変視症」や視力低下、見たいところに黒い部分ができる「中心暗点」などがあり、これらは時間の経過とともに徐々に進行していきます。
加齢黄斑変性症の治療
萎縮型には有効な治療薬はありません。滲出型加齢黄斑変性症に対しては、新生血管の増殖を抑える抗V E G F薬を目の中に注射する治療法があります。
ただし、薬の効果は永続的なものでなく必要な注射回数は患者さんの病状によって異なります。血管の老化を防ぐ意味で、禁煙はとても大切です。
また抗酸化成分の多い野菜や、魚などを中心とした食事を心がけ、加齢黄斑変性に効果のあるサプリメント服用も有用です。
糖尿病網膜症
糖尿病と網膜症の関係
糖尿病患者の約4%に網膜症が発症するといわれています。糖尿病網膜症のリスクファクターとしては、血糖値コントロール(HbA1c)不良、長い糖尿病罹病期間、高血圧などが指摘されており、糖尿病網膜症を発症させないため、また進行させないために内科的治療が大切です。
糖尿病網膜症の症状
網膜の血管障害程度により単純型、前増殖型、増殖型網膜症の3つのステージがありますが、レーザー治療が必要な前増殖網膜症になっても、ほとんど自覚症状は見られません。
自覚症状が出た時には、すでに増殖型網膜症になっていて失明寸前ということもあり得ます。
また、軽傷または中程度網膜症でも黄斑部に浮腫を合併することがあり、その場合には視力がおびやかされます。
増殖型網膜症に進んで来ると硝子体出血が生じて、急激な視力低下をきたしたり、難治な緑内障(血管新生緑内障)を発症することもあります。
糖尿病網膜症の治療
単純型網膜症が見られる場合は、半年に1回ほどの経過観察を行います。前増殖型網膜症の時期には2か月に1回ほど経過観察を行い、血行の悪い網膜箇所に対してレーザー治療を施行します。
糖尿病黄斑症を合併していて視力が低下している場合には、ステロイドのテノン嚢下注射や抗VEGF薬の硝子体注射治療が必要となります。
増殖型網膜症に進んでしまい、硝子体出血や牽引性網膜剥離を生じている場合にはレーザー治療だけでなく、硝子体手術が必要となります。
網膜静脈閉塞症
網膜静脈閉塞症の原因
高血圧症などで動脈硬化が進行してくると、網膜内で交叉している網膜動脈が網膜静脈を圧迫して血流が滞り、静脈が閉塞することによって眼底出血が発生します。同時に網膜の浮腫も起こります。
網膜静脈閉塞症のタイプ
網膜内の網膜静脈の閉塞が起こったものを網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)、視神経の鞘の中で網膜静脈が閉塞する網膜中心静脈閉塞症(CRVO)があります。
網膜静脈閉塞症の症状
BRVOでは出血場所によっては自覚症状に乏しいこともあります。眼底出血に伴う網膜浮腫が黄斑部に及ぶと視力低下や歪みを生じます。
CRVOでは網膜全体に出血や浮腫が生じることが多く、急激な視力低下を来します。網膜の循環が悪い虚血型の場合は、新生血管が発生し硝子体出血や緑内障を発生することもあります。
網膜静脈閉塞症の治療
高血圧や動脈硬化症に対する内科的治療をしっかり行います。網膜の浮腫や虚血を認める場合にはレーザー光凝固治療をします。
黄斑部浮腫を合併して視力が低下している場合は、黄斑浮腫をとる薬(抗VEGF)を眼内に注射します。
硝子体注射
眼球(白目部分)に注射針を刺入し、薬剤を直接注入していく治療法が硝子体注射です。
同療法は、視力に影響を及ぼすとされる眼疾患(加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症)に対して用いられます。
この場合に使用される薬剤とは、抗VEGF薬になります。
同薬は、何らかの原因(糖尿病による細小血管障害 等)で網膜の血管が閉塞し、血流が途絶えるなどすると新たな血管が発生するようになります。
この新生血管は、脆弱で破れやすいという特徴があります。
これによって同血管が破れる、あるいは血液成分が漏れるなどして、網膜に出血がみられると視力低下などの障害がみられるようになります。
このような状況にならないよう、新生血管の成長に大きく関与するとされる血管内皮増殖因子(VEGF)の働きを阻害させる効果があるとされているのが抗VEGF薬です。
同薬を硝子体に向けて注入していくことで、新生血管は退縮していき、症状は改善していくようになります。
治療方法ですが、眼球(白目)に直接注射針を刺すことになるので、はじめに目の周囲を消毒し、感染症予防のための抗菌薬を点眼します。
続いて、麻酔薬の点眼を行い、注射時の痛みを軽減させます。
準備が整えば注射となります。使用する注射針は非常に細い針で、痛みを感じることはほぼないとされています。注射自体は数分程度で終了します。
同注射を受けた直後は、院内で一定の間は安静にしています。
その後、何も問題がなければ、細菌感染を予防するための点眼薬の使用等についての説明を受け、ご帰宅となります。
なお当日は、ご自身の運転(車・バイク・自転車 等)による来院は控え、公共交通機関をご利用ください。
また注射日の翌日は目の状態を医師が確認しますので、ご来院ください。
この硝子体注射は1回で終了ということはありません。
開始後3か月までは、月1回の間隔で注射を受けます。
その後は、患者さんそれぞれの目の状態に応じて、2~4か月の間隔で打つなどします。
また注射を打たなくても経過観察として通院することもあります。
このほか同注射による副作用に関してですが、いずれもまれではありますが、結膜出血、眼圧・血圧の上昇、白内障の進行、月経不順、脳梗塞などの報告があります。
ただ最も注意しなくてはならないのは細菌感染です。
そのため感染予防のための抗菌薬の点眼は、医師の指示に従って使用するようにしてください。
レーザー治療(レーザー光凝固術)
網膜光凝固術とも呼ばれます。
主に網膜の血管あるいは組織をレーザー熱によって凝固させる治療になります。
この場合、網膜疾患が対象となります。
治療(施術)にあたっては、点眼麻酔を行い、特殊なコンタクトレンズを装用してからレーザーを照射していきます。
網膜裂孔(網膜に孔が開く)の患者さんでは、孔の周りにレーザーを照射し、網膜に瘢痕をつけるなどしてくっつけるようにして孔を塞いでいきます。
なお網膜剥離であっても、剥離の状態が間もない場合であればレーザーによる治療は可能です。
また動脈硬化による血管障害が網膜にまで及ぶことで、虚血状態から新生血管が発生する眼疾患として、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症があります。
この場合も新生血管に向けてレーザーを照射し、焼灼することで病状の悪化を防いでいきます。
このほか加齢黄斑変性でも脈絡膜から網膜に向けて新生血管が伸びていきます。
この場合、黄斑部の中心窩まで新生血管が達していなければ、レーザー光凝固術によって焼き潰していきます。
